離れていても“体験”はデザインできる。オンラインライブの進化とは?
コロナウイルスの影響を受け、ライブ型エンタテイメントが苦境に立たされています。ライブハウスや劇場など、独特の熱量を感じられる体験は、参加者同士の絆を深めるなど、大きな高揚や価値を生む装置として愛されてきました。
このようなイベント縮小の流れは、同種の体験を企業活動に応用してきたブランドコミュニケーションにも影響を及ぼしています。そのような状況下で今注目したいのが、盛り上がりの兆しを見せているオンラインライブです。
プラットフォームを提供するLINEの取締役・舛田淳さんと弊社代表・島崎との対談を通じて、オンラインライブの進化と可能性について、考えを深めていきます。
対談相手:島崎昭光(Harumari Inc.代表)/構成:芋川 健
※以下、敬称略※

目指しているのは「ライブ体験の再現」
島崎/物理的な空間をともにする機会が失われつつある中で、御社でもLINE LIVE-VIEWINGを始められました。ライブ配信自体はこれまでも存在していた技術ですが、時代の空気感が変わり、オンラインライブはこれまでと違う価値や絆づくりができるように感じています。ユーザーの反応をどう感じてらっしゃいますか?
舛田/すごく楽しんでいらっしゃると思います。方向性として、LINE LIVE-VIEWINGの開発陣には「本物のライブに限りなく近づけてくれ」というオーダーを出しているんです。映像と音声をただ流すのではなく、入場するためのモノを「チケット」と呼んだり、スタートを待つ臨場感を味わえるよう「開演」と「開場」を分けたり、ギフティングのシステムでは、ただの可愛いアイテムではなく、サイリウムにしたり。これらが1つのパッケージになり、ライブ体験になるわけですから。
島崎/確かに! チケットって「あの時、あの場所にいた」という証として大事に保管する人もいますよね。その気持ちは紙だろうがデジタルだろうが、変わらない。
舛田/その通りです。こういったリアルな体験に近づけていくことは、ユーザーもアーティストをはじめとした制作スタッフも想像以上に楽しんでくれています。最初は「これしかないからやる」だったんですけど、「これはこれであり」という風に変わってきたように思います。

LINE LIVE-VIEWING/LINEが8月にスタートした有料オンラインライブ配信プラットフォーム。豪華なアーティストラインナップで話題となった。
オンラインで“特別感”をつくる重要性
舛田/これまで音楽ライブの配信といえば、演出のクオリティや配信の安定性を高めるために、事前に撮ったものを流すのが主流でした。これはこれで非常に画期的なことで、たとえば今年6月に行われたサザンオールスターズの無観客ライブは、見に行っていると錯覚するほどのクオリティでしたし、普段子どもがいてライブに行けない人たちはテレビの前で見られるチャンスが得られました。ただ、音楽ライブもライブ・コミュニケーションの一種だとすれば、まだコミュニケーションにはなっていないと思ったんです。コールアンドレスポンスのようなインタラクションがありませんし、ライブはアクシデントがあるかもしれない、というある種の緊張感のもとで楽しさが増すものなので、オンラインでもそれをどうデザインするかにチャレンジすべきだと思っています。
島崎/偶発性を含めてライブだと。
舛田/ええ、そのためにまずはオフラインのリアルに近づけようと。弊社ではアーティストやアイドルと1to1のトークができるLINE Face2Faceというサービスも開発したのですが、じつは音楽関係者からきた最初の相談はここだったんです。今のアーティストの方々は、握手会をしたり、ファンミーティングをしたり、コミュニケーションを非常に大切にされている。じゃあそれをDX(デジタル・トランス・フォーメーション)しましょう、と。これは突き詰めれば、ライブの特別感をどうつくるかという問題です。だから、この先のデザインとしては、オンラインであってもライブに参加しないと会えない、購入できないといった制約をかけるなどして、体験をうまく演出していくことだな、と。
島崎/なるほど、本当に大切なのはライブの本質的な楽しさに立ち返った上で、オンラインでの表現を考えることだと言えそうですね。


LINE Face2Face/オンライン上で好きなアーティストやアイドルと1対1で直接話すことができるチケット制ライブ。
オンラインで広がる演出の可能性
島崎/これまでは演出家がステージ上の演出を考えるのがライブエンタメでしたが、今後は配信プラットフォーム、そしてユーザーの要望も含めて演出が進化していきそうですね。
舛田/まさか、我々がライブの演出にまで入ることになるとは思いませんでした(笑)
島崎/そうですか? 舛田さんは楽しそうですよ(笑) オンラインライブは音楽に限ったことではないので、演劇の話をすると、今は「とりあえず、Zoomで会話劇をやりました」という段階ですが、オンラインならではの環境で役者をどう生かせるか、映像作品としてカメラワークをどうするかなど、クリエイティブの可能性は結構大きいと思っていて、そうした動きも始まっています。我々も11月に物理的に遠く離れた場所をつなぐことで生まれるオンライン演劇をやろうと思っているのですが、リアルが制約されている今だからこそ、この機会をどうすれば楽しくなるのか、ポジティブに進めていきたいです。
舛田/面白そうですね。ただ、テクノロジーは手段でしかありません。コンテンツや企画、演出をしていく時に、テクノロジーに食われすぎないようにしなくては。本質的ではない使い方をすると、流行りに乗っただけになってしまいます。試行錯誤を繰り返して色々な演出やパターンが出てくるのは楽しみですね。
ライブコミュニケーションの変化
島崎/オンラインライブのコミュケーションという観点でもう少しお話させてください。御社のサービスでは、コロナ期間においてコミュニケーションにどのような変化が見られましたか?
舛田/いろんなものが伸びましたね。通常のLINEの通話もビデオコールもグループ通話も増えました。なにより一番伸びたのは、ライバー(配信者)によるライブ配信ですね。大きく変わったのは、「みんなが普通に動画で顔を出すようになった」ということです。これまでLINE LIVEでも特定の方しか顔出しはしなかったんですが、みなさんがビデオ通話やZoomに慣れたことでハードルが下がっているのは間違いありません。
島崎/世代的にも若い方だけじゃなく、幅広くですか?
舛田/はい、幅広くなってきました。

企業ブランディングに活かす可能性
島崎/プラットフォームが整い始め、ユーザーもオンラインライブ・コミュニケーションに慣れてきたならば、企業活動でも応用できる気がします。
舛田/もちろんできると思います。海外だとライブコマースが盛んですが、国内ではまだまだです。ライブで展開することに本気になる企業があってもいいのではないでしょうか。もちろん、コマースでなくても、ライブコミュニケーションの過程をアーカイブしてコンテンツに転用し、PRに活かすこともできますし。
島崎/DX的な視点でも、大きな企業であれば、コミュニケーションと流通を一緒にした大規模な施策もできそうですね。
舛田/はい。ただ、軸となるコミュニケーション設計を押さえた上で、本質を捉えた演出を行う努力が大切です。インターネットは便利ですが、合理性を求めると、表現の発想が極端になくなっていく。ある種の非合理さというか、予定調和になっていないものが記憶に残るでしょうし、それが体験の価値になっていくと思います。


LINE株式会社 取締役 CSMO/エンターテイメントカンパニーCEO。事業戦略・マーケティング責任者を務め、LINEを爆発的ヒットに導いた。現在もエンタメ事業など、様々な領域のコミュニケーションの最大化を図っている。