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Interview | 2020.1.109:00

デジタル時代、メディアはファンとどう向き合うべきか?

佐渡島 庸平
株式会社コルク代表

SNSやブログで個人が自分のファンを増やし、コミュニティを創っていく時代。時に大きな行動喚起や購買力を生み出すファンとの絆作りは、個人だけでなくパブリッシャーや企業が運営するメディアにとっても重要な取り組みです。

デジタルの世界でいち早く作家と読者を繋いできた佐渡島庸平さんと「メディアのファン化」について考えてみました。

対談相手:島崎昭光(Harumari Inc.代表)/構成:芋川 健

※以下、敬称略※

雑誌にファンはいなかった?

島崎/今や個人がnoteで自分の記事のサブスクを始めたりオンラインサロンで会員化したりと、ファン化によるビジネスが広がっています。かつての雑誌メディアにも、きっとファンはいると思うのですが、あまり上手く向き合えていない気がします。



佐渡島/そもそも「雑誌メディアにそこまでファンはいたのか」という問題はあると思うんです。電車に乗るとき、何気なく駅の売店で購入していたのが、たまたまその雑誌だったんじゃないかと。たとえば、食のジャンルなら、いまはクックパッドや食べログにはもっとファンがいると思うんですよ。



島崎/それは食の雑誌よりクックパッドの方が接触頻度が多いという意味で?



佐渡島/そうです。昔は、電車の中で情報を摂取しようと思うと新聞と雑誌の独壇場だった。今はそれがスマホに代わって、食ファンにとって、もっとも出会いが多いのが、ウェブサービスになっただけだと思っていて。



島崎/情報の寡占がなくなって、メディアのありがたみは薄くなりましたよね。



佐渡島/そもそも、僕は95%の人は何のファンでもないと思っていますし。



島崎/基本は情報を得るためであって、発信者であるメディアに思い入れはない。



佐渡島/そう。たとえば食にものすごくこだわりがある人自体、そもそも5%位しかいない。この5%の人の中で、さらに「この雑誌で情報摂取がしたい!」っていう人、つまりファンは5%の中の5%。だからほとんどの人にとって、雑誌の編集長とレビュアーは同じような存在なんです。



島崎/なるほど。そもそも必要に迫られて雑誌を手にしていただけではファンではないし、情報の希少性というところで繋がっていたとしたらそれもデジタルの時代、価値は無くなる。その点で、雑誌メディアは読者と“何で繋がっていたのか”という視点が大事になりますね。

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質・量でネットに凌駕されるマスメディア

佐渡島/それに、伝えていた情報がエッジィだったかというと、食や車、スポーツなど今思うとざっくりとしたジャンルで、そこまでキャラが立っているわけではない。学校のクラスにいたスポーツに詳しい人が、世の中に出たらそんなに詳しくなかった、といったことが起こってしまった。



島崎/書店という限られた世界で戦っているうちはユニークで深い情報だった。取材やリサーチしたことを世の中に出すだけの機能だったら、もう勝ち目はないですね。



佐渡島/10年前、20年前の編集者は、何でも知っている凄い人という存在だったけれど、最近はそのイメージが変わってきている気がします。逆に、プライベートでいろんなレストランに行っている人の方が、グルメ誌の人より多く食べているじゃないかって話です。



島崎/「ネットの情報なんて大したことない」と言っているテレビのディレクターが番組のリサーチにネットを使っている。明らかに媒体単位の優位性でいうと、インターネットという器の方が、広いし深い。



佐渡島/昔は雑誌や書籍に載ってからテレビで取り上げられていたのが、今はネットで話題になってそれが雑誌に行く場合もあれば、テレビに行く場合もある。一次情報がすべてネットになっていますからね。



島崎/そういう意味でいうと、そこに編集力が必要なのかもしれない。雑誌にもテレビにも希少性とは違うエッジがあったはずです。

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メディアの活路はどこにある?

島崎/ファンを増やすという意味でメディアの弱点は、編集長や発信者の存在感の希薄さもある気がします。どちらかというとメディアのネームに隠れて黒子的な存在です。企業のオウンドメディアもそうですが、中の人が勇気をもってパーソナリティを出すことが重要だと思いますが、どうでしょう。



佐渡島/それはここ20年の日本経済を支えたのは、戦後にできたベンチャーだった、というのと同じ現象かもしれません。



島崎/というと?



佐渡島/失われた20年と言われますが、創業社長が健在の企業は伸びているんですよ。法人格の“人”が見えなくなった企業が消えている。人が見えない会社が沈むという流れはずっとあるんです。それがネットの存在で顕著になったということかもしれません。後継の編集長は、今ある形を守る職人になることが多い。歴史を振り返っても、歌舞伎役者の前の代と今の代でどう違うかわからなかったりします。でも、それを刷新する人が有名になり新しいファンを増やしていく。そういうことをするかどうかじゃないでしょうか。



島崎/そういう意味で、個性が際立つファンの多いメディアはどこでしょう?



佐渡島/「北欧、暮らしの道具店」はうまいですね。



島崎/確かに、ECサイトですけど、店長ブログなどスタッフの人柄がでているメディアですよね。世界観もわかりやすい。



佐渡島/そう、世界観ですね。



島崎/そう、同じ情報でも気に入った世界観での情報摂取の方がいい。「絶対にココでなくてはいけないわけではないけど、選ぶなら好きな世界観の中で」という選ばれ方です。ただ佐渡島さんが行うような、作品の熱量や、作家のパーソナリティで作るファンとの絆とは違う気がしますが。



佐渡島/いえ、結局は一緒ですよ。情報メディアは既存の情報や世界観を再現することが機能です。それに対して、作家は自分の頭の中にある世界を再現させて読者に体感させる。例えば、『宇宙兄弟』で言うと、主人公の六太や日々人たちのいる世界を創り上げる。それが作家の価値であり、結局は世界観を作り切った者勝ちだと思います。



島崎/では、情報メディアも自分たちが定めた世界観を突き詰めることが価値になる。



佐渡島/そう、忠実に深掘りできるかどうかだと思いますけどね。

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バズよりも我慢が必要

島崎/では、メディアはどんな施策でファンを作っていくべきかという話ですが。



佐渡島/マスコミの人と話していると、どうやってバズを作るのかという話になりますが、ネットの中だとバズがなくても活躍していける可能性が高いのです。着実にずっとやることが大切。5年、10年着実にやっていれば、食べていけます。たとえば、「北欧、暮らしの道具店」も1回だってバズがありましたかっていうと、それはないわけで。



島崎/じっくり我慢して貫き通せるか。



佐渡島/そう、そっちの方が重要です。



島崎/経験則として、ある程度のファンの数と熱量が高まるのは、どれくらいですか?



佐渡島/3年経った頃から結果が出てきます。3年もやってないものは信用が貯まっていないことが多い。“お試し感”の空気を漂わせていたら、ブランドとは言えないですよ。



島崎/3年が長いか短いか、運営者の覚悟が必要ですね(笑)

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佐渡島 庸平

株式会社コルク代表。2002年に講談社に入社し、週刊モーニング編集部に所属。漫画家・井上雄彦、三田紀房、安野モヨコ、小山宙哉などを担当。2012年に講談社を退社し、作家のエージェント会社・コルクを設立。